中小企業のABM実践——ターゲットアカウント営業の始め方
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、不特定多数に広く営業をかけるのではなく、受注インパクトの大きい少数の企業を先に選び、その企業に対して複数の接点からアプローチを集中させる営業手法です。 営業人員が限られる中小企業ほど、リソースを薄く広げるより少数に集中させる方が合理的であり、ABMは中小企業にこそ相性の良い考え方だといえます。
この記事では、中小企業がABMをどう始めればよいか、ターゲットアカウントの選び方から具体的な進め方まで発注者目線で解説します。
比較表:従来型の新規開拓とABMの違い
| 項目 | 従来型の新規開拓(リードジェネレーション) | ABM(ターゲットアカウント営業) |
|---|---|---|
| アプローチの順序 | 広くリストにアプローチし、反応を絞り込む | 先にターゲット企業を絞り、個別にアプローチを設計する |
| 対象社数 | 数百〜数千社規模が多い | 10〜30社程度が目安 |
| 1社あたりの工数 | 薄く広く | 厚く深く |
| 接点の持ち方 | 単一窓口(1つの担当者)が中心 | 複数の決裁関係者に同時並行で接点を持つ |
| 向いている商材 | 単価が比較的小さく件数で成果を出す商材 | 単価が大きく、1社の受注インパクトが大きい商材 |
| 向いている企業規模 | 営業人員が多く、量をこなせる体制 | 営業人員が限られ、少数に集中したい体制 |
なぜ中小企業にABMが向いているのか
ABMは「大企業がやる手法」というイメージを持たれがちですが、実際には逆です。大企業は営業人員もリスト数も多く、広く撒いて確率で成果を出す従来型の新規開拓でも一定の商談量を確保できます。一方、営業人員が数名〜十数名規模の中小企業では、同じ発想で広く薄くアプローチしても、1社あたりにかけられる時間が足りず、どの企業からも中途半端な接点しか持てません。
ABMは、この「広く薄く」の限界を逆手に取り、最初から対象を絞ることで、少ない人員でも1社に十分な時間をかけられるようにする考え方です。ターゲットの絞り込み自体がリソース制約への対応策になっている点が、中小企業にABMが向いている理由です。
リストの絞り込み精度が成果に直結する構造はターゲットリストのセグメント設計でも解説していますが、ABMはこの絞り込みをさらに一歩進め、業種や規模で区切った「グループ」ではなく、企業名を指名した「個社」単位で戦略を立てる点が特徴です。
中小企業ABMの始め方——4つのステップ
ステップ1:ターゲットアカウントを少数選定する
まず「獲りたい企業」を具体的な企業名でリストアップします。選定基準は、受注した場合のインパクト(売上・契約期間・紹介の広がりなど)と、現時点での受注確度の両方です。自社の過去の受注実績を振り返り、どんな特徴を持つ企業が受注しやすく、かつインパクトが大きいかを整理したうえで、10〜30社程度に絞り込みます。
ステップ2:企業ごとに個別のアプローチを設計する
従来型の新規開拓では共通のトークスクリプトを使い回しますが、ABMでは対象企業ごとに「なぜこの企業に提案するのか」「どの部署のどの課題に刺さるか」を個別に言語化します。企業数が少ない分、この個別設計にかけられる時間を確保できるのがABMの前提です。
ステップ3:複数の決裁関係者に同時並行で接点を持つ
単一の窓口だけにアプローチすると、その担当者が異動・離脱した時点で接点が途切れます。ABMでは、同じ企業の中で複数の部署・複数の役職にまたがって接点を持ち、誰か1人が反応しなくても他の接点から商談につなげられる状態を作ります。決裁者への到達が重要になる理由は決裁者アポとは?単価が上がる理由と費用対効果の考え方でも触れていますが、ABMはこの決裁者接点を複数ルートで狙う発想そのものです。
ステップ4:企業ごとに反応を記録し、アプローチを調整する
ターゲット企業ごとに、どの部署が反応したか、どんな反応だったかを記録し、次の接点に反映させます。社数が少ないため、企業単位で細かく振り返りができる点もABMの利点です。複数の決裁関係者が絡む案件では、稟議の進み方自体を把握しておくことも重要になります。この点は決裁プロセスの把握——稟議・複数決裁者案件の進め方で詳しく解説しています。
外注する場合の見方——社内でABMをやる場合との違い
ABMは個社ごとの個別設計が前提のため、外部の営業代行会社に依頼する場合、確認すべきは「何件アプローチできるか」ではなく、対象企業ごとにどこまで個別の設計をしてもらえるかです。
- 対象企業について、業種や規模だけでなく、個社の事業内容・組織構造まで把握した上でアプローチを組んでいるか
- 複数の決裁関係者に接点を持つ設計になっているか、単一窓口への架電で終わっていないか
- 企業単位でのレポートができるか(グループ平均のレポートしか出せない会社はABMに不向き)
ABMは1社あたりの工数が重いため、アポ単価も通常の新規開拓より高くなりやすい傾向があります。営業代行のアポ単価の仕組み自体はアポ獲得単価の相場はいくら?で解説していますが、ABMの場合は単価の高さよりも、個社ごとの設計精度と決裁者への到達度で評価すべきです。
ABMが向かないケース・注意点
ABMは中小企業に相性の良い考え方ですが、正直に言うとすべての商材・体制に向くわけではありません。
- 商材単価が低く、件数で成果を出す構造の商材:1社あたりに手間をかける分、単価が低い商材ではABMの投資対効果が合わない場合があります
- 対象企業を絞り込むための実績データがまだ少ない:受注実績が極端に少なく「どんな企業が受注しやすいか」の仮説が立てられない段階では、まず従来型の新規開拓で母数を広げ、データを蓄積してからABMに移行する方が合理的です
- 社内に対象企業ごとの個別設計をする工数を割けない:ABMは個社ごとの設計が前提のため、担当者が他業務との兼任で手が回らない場合は、中途半端な接点しか作れず従来型以下の成果になりかねません
まだ勝ち筋の業種・企業特徴が定まっていない創業期の会社は、まず母数を広げて検証する段階が先になることが多く、スタートアップの営業代行——最初の10社獲得までの使い方も参考になります。限られた予算での始め方全般は中小企業の営業代行活用——予算50万円未満で始める方法にまとめています。
まとめ
- ABMは、受注インパクトの大きい少数の企業を先に選び、複数の接点からアプローチを集中させる手法で、営業人員の少ない中小企業ほど相性が良い
- 始め方は、ターゲットアカウントの選定(10〜30社程度)→個別アプローチの設計→複数の決裁関係者への接点作り→企業単位での振り返り、の4ステップ
- 外注する場合は、個社ごとの個別設計と複数決裁者への接点設計ができているかで会社を見極める
- 商材単価が低い、受注実績データがまだ少ない、個別設計の工数を割けない場合はABMより従来型の新規開拓が先になる
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この記事に関するよくある質問
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは何ですか?中小企業でも使えますか?
ABMとは、不特定多数の企業に広く営業をかけるのではなく、自社にとって受注インパクトの大きい少数の企業(ターゲットアカウント)を先に選び、そのアカウントに対して複数の接点・複数の決裁関係者からアプローチを集中させる営業手法です。大企業のマーケティング部門が使う手法として語られることが多いですが、むしろ営業人員が限られる中小企業の方が、リソースを薄く広げず少数に集中できる分、相性が良い考え方です。
ABMと通常の新規開拓(リードジェネレーション)は何が違いますか?
通常の新規開拓は、まず広くリストにアプローチして反応のあった企業を商談化する「広く撒いて絞る」順序です。ABMはこの順序を逆にし、先に「獲りたい企業」を少数選定してから、その企業に合わせてアプローチ方法を個別に設計します。母数を増やして確率で成果を出す発想ではなく、狙った企業を確実に落とす発想である点が最大の違いです。
中小企業がABMを始める場合、何社くらいのターゲットから始めるべきですか?
一般的には10〜30社程度から始めるのが現実的です。社数が多すぎると1社あたりにかけられる工数が薄くなり、ABM本来の「集中」の利点が失われます。まずは自社の受注実績を振り返り、受注確度が高くインパクトも大きい企業を絞り込んだうえで、少数精鋭のリストでテストすることをおすすめします。